本書で扱われているDARPAは、米国防省の機関としてはNSAなどと比べると知名度が低く、DARPAに関する著作もこれまで見たことが無かったのだが、DARPAは、コンピュータ、衛星、インターネット、ドローン、GPS、そしてAIといった、今や我々の生活には欠かせないものとなったハイテクを生み出した機関として、知る人ぞ知る機関なのである。本書の存在を知るや否や、原書を注文して読んだ。

筆者は、機密解除された公文書や関係者へのインタビューを駆使し、第二次世界大戦中にまで遡ってDARPAのルーツを探り、現在に至るDARPAの歴史を描いている。情報機関同様、DARPAも機密の塊であり、本書で扱われているのはほぼ公然情報であり、スクープ的な情報はほとんど無かったように思われるが、DARPAの歴史をこれほど体系的に描いた書物はおそらく前例がなく、極めて価値がある書物だと思う。

現在、わが国では、防衛装備庁から大学等の研究機関への資金提供が批判に曝されているが、ベトナム戦争中に枯葉剤の開発に関与したDARPAも同様に大学への資金提供を世間から叩かれ、デモまで起こっていたということである。ただ、米国でこのようなことが起こったのは４０年以上も前のことであり、日本は４０年以上も前の米国の水準にようやく足を踏み入れようとしているに過ぎないのではないか。また、DARPAにはノーベル賞受賞者を始めとする超一流の科学者が協力しているが、防衛装備庁にこのようなレベルの科学者が協力しているという話は聞いたことが無い。日米間の力の差を感じさせられる。

日本の科学技術の優位が揺らいでいると言われているが、防衛装備庁からの資金提供は、日本の科学技術と我が国の防衛に何をもたらすのか。非常に大部の書物であるが、まとまりがなく、筆者の主張が明らかにされていないといった難点もあるが、日本の将来を考える上でも大きな示唆を与えてくれる良書である。

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Category	Asia

The Pentagon's Brain: An Uncensored History of DARPA, America's Top-Secret Military Research Agency